話すのが得意な人ほど、実は損をしていることがある。
そんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、私はこれを身をもって経験してきました。
プログラミング講師としてさまざまな受講者と向き合う中で、「伝える」ことに必死になりすぎて、肝心なことを見逃していた時期があります。
講義の準備を重ね、わかりやすい説明を磨き上げ、自分なりに精一杯やっているつもりだった。
でも、受講者の表情はどこかぎこちなく、質問も出てこない。
手ごたえのなさをうっすら感じながらも、その原因がどこにあるのか、長いことわからないままでいました。
自分では「ちゃんとやっている」と思っていたから、余計に気づくのが遅れたのかもしれません。
あるとき、講義の途中でふと口を閉じてみました。
説明をやめて、ただ目の前の受講者をじっと見た。
すると、それまでずっと黙っていた方が、ぽつりと話し始めたのです。
「実はここがずっとわからなくて」と。
たった一言でしたが、その言葉は私の中の何かを揺さぶりました。
私はずっと「教えること」に集中していて、「聴くこと」をほとんどしていなかった。
そのことに、そのとき初めて気づいたのです。
失敗というより、盲点でした。
見えているようで、まったく見えていなかった。
あの瞬間の静けさは、今も不思議と鮮明に覚えています。
コミュニケーションについて考えるとき、多くの人は「どう話すか」に意識が向きがちです。
論理的に伝えること、わかりやすい言葉を選ぶこと、声のトーンや表情を整えること。
もちろんそれも大切な要素ではあります。
でも実のところ、良いコミュニケーションの土台を支えているのは「聴く力」の方だと私は感じています。
話す技術をいくら磨いても、相手が何を求めているかを受け取れなければ、言葉はすれ違うばかりです。
どれだけ丁寧に言葉を並べても、空回りしてしまう。
そういう経験に心当たりはないでしょうか。
人はそれぞれ、まったく異なる背景を持って生きています。
育ってきた環境、積み重ねてきた経験、ものごとの捉え方、感じ方の癖。
同じ言葉を聞いても、受け取り方はひとりひとり微妙に違います。
だからこそ、「相手の視点はきっと自分とは違う」という前提を持ちながら丁寧に耳を傾けることが、会話の質をまるごと変えてしまうのです。
自分の物差しだけで相手を測ろうとするとき、どうしても何かがこぼれ落ちていく気がします。
あなたは最近、誰かの話を「本当に聴けた」と思える瞬間がありましたか?
講師という立場でいえば、これは特に強く実感します。
どれだけ丁寧に説明しても、受講者が今どこでつまずいているのかを把握できていなければ、言葉は空を切るだけです。
相手の言葉だけでなく、その言葉の裏にある迷いや戸惑い、言いかけてやめたニュアンスまでを受け取ろうとするとき、初めて「伝わる」という瞬間が生まれます。
それを繰り返す中で、私自身の講義はずいぶん変わりました。
以前と比べて受講者からの質問が増え、「わかりました」という言葉の重みが変わった気がします。
教えることと聴くことは、切り離せないものなのだとようやく腑に落ちました。
ストレングスコーチとしての活動を続ける中でも、同じことを感じています。
自分の強みを見つける作業は、誰かに答えを教えてもらうものではありません。
相手が自分自身の中にある言葉を探しているとき、こちらがしゃべりすぎると、その言葉はかき消されてしまいます。
沈黙を恐れず、間を大切にすること。
そのちょっとした余白が、相手の中の気づきを引き出す鍵になります。
これも、失敗しながら学んだことです。
最初のころは沈黙が怖くて、つい何か言いたくなっていました。
間が空くたびに焦って言葉を足してしまい、かえって相手の思考を遮ってしまっていたのです。
聴くことには、技術が必要です。
ただ黙って待つだけでなく、相手の言葉をきちんと受け取っているというサインを送りながら、次の言葉が出てきやすい空気をつくる。
相槌のタイミング、視線の向け方、問いかけのしかた。
これらは意識しながら練習することで確実に磨かれていくものです。
「なんとなく聴いている」と「本当に聴いている」の間には、思った以上に大きな差があります。
技術と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、意識するだけで今日から変えられることも多いと思います。
以前、あるベテランの方から言われた言葉がずっと頭に残っています。
「一番よく教えられる人は、一番よく聴ける人だ」と。
当時はなんとなく頭でわかったつもりになっていました。
でも今になって、その言葉の重みをじわじわと感じています。
聴く力を鍛えることが、結果的に自分の言葉の届き方を変えてくれる。
そんな実感が、少しずつ積み重なってきました。
話すより先に、聴く。
自分の言いたいことを伝える前に、相手が何を必要としているかを受け取る。
そのたった一つの意識の転換が、コミュニケーションの質をがらりと変えてくれます。
今日からでも遅くありません。
ぜひ一度、誰かの話にじっくり耳を傾けてみてください。
きっと、これまでとは違う景色が見えてくるはずです。