教える側に立ったとき、あなたは最初に何を考えますか。
「どこから説明しようか」「どんな資料を準備しようか」と、つい手段から考えてしまいがちですよね。
でも実のところ、一番最初に決めるべきことは別のところにあります。
それは、相手にどんなことができるようになってほしいのか、明確なゴールを設定することです。
これを最初に決めるかどうかで、その後の学習の質がまるで別物になってきます。
手段は後からいくらでも調整できますが、ゴールが曖昧なまま進んでしまうと、あとから軌道修正するのはとても難しい。
それがこの話の核心であり、教える立場に立つ人間が最初に向き合うべき問いでもあります。
ゴールが定まっていると、受講者は自分がどこに向かっているかを常に意識しながら前進できます。
たとえば「この講義が終わる頃には、Excelで集計表を自分で作れるようになる」というゴールが明示されていれば、受講者は迷わず前に進める。
一方でゴールがぼんやりしていると、どれだけ丁寧に説明しても「結局これって何のために学んでいるんだろう」という霧の中に迷い込んでしまいます。
学習効率は、ゴールの明確さに比例するといっても過言ではありません。
これは感覚論ではなく、複数の研修現場で繰り返し確認してきた、私自身が現場で得てきたリアルな手応えです。
ゴールを一文で宣言するだけで、受講者の集中力が明らかに変わる。
その変化を目の前で何度も見てきました。
実は私自身も、かつてゴールを曖昧にしたまま講義を進めて痛い目を見た経験があります。
企業研修で、「とにかく基礎から全部教えれば分かってもらえるだろう」と意気込んで臨んだことがありました。
ところが終了後のアンケートには「何を学んだのか最後までよく分からなかった」という声が複数並んでいて、正直かなり落ち込みました。
受講者に申し訳ない気持ちと、自分の準備不足への後悔が、ぐるぐると頭を回り続けた夜を今でも覚えています。
あのとき感じた「ズシン」という重さは、今でも講義前の自分を律してくれます。
失敗は恥ずかしいものですが、それ以上に大切なことを教えてくれる師でもあるのです。
その後、講義の冒頭で必ずゴールを一文で宣言するようにしました。
たったそれだけのことで、受講者の表情がはっきりと変わったのです。
質問の数が増え、「あ、それってゴールに関係していますか?」と自分から確認してくる受講者まで現れました。
ゴールを示すことで、受講者が受け身ではなく主体的に動き始めた。
この変化は、一度体感すると忘れられないものがあります。
それまでは「うまく教えること」を目指していましたが、ゴールを共有してからは「受講者がうまく学べる環境を作ること」こそが自分の役割だと気づきました。
とはいえ、ゴール設定は一度失敗してようやく本当の難しさが分かるものでもあります。
最初のころは「プログラミングの基礎を理解する」という漠然とした目標を掲げていました。
しかしこれは受講者にとっては何も言っていないに等しく、終了後に「基礎って結局どこまでですか」と聞かれて言葉に詰まりました。
それ以来、ゴールはできる限り動作レベルで書くよう心がけています。
「〇〇ができるようになる」という形にするだけで、受講者の理解度が目に見えて変わってくる。
ゴールが具体的であればあるほど、学ぶ側も教える側も同じ地図を持って進めます。
そのシンプルな事実に気づいてから、講義全体の設計が根本から変わりました。
さて、ここで少し立ち止まって考えてみてください。
あなたが誰かに何かを教えるとき、ゴールを相手に伝えていますか。
「何となく説明している」「相手が理解してくれればそれでいい」という感覚で進めていませんか。
もしそうなら、それはとても惜しい。
伝えたいことがどれだけあっても、受講者が「何を目指せばいいのか」を掴めていなければ、その情報は消化されずに流れていくだけです。
ゴールは、受講者に渡すコンパスのようなもの。
コンパスなしで地図を渡しても、どちらに進めばいいか分からないまま終わってしまいます。
学ぶ側が「今自分はどこにいて、どこに向かっているのか」を把握できる環境を作ること、それが教える立場の人間にできる最大の貢献のひとつだと私自身は考えています。
ゴールが見えれば、受講者は自ら地図を読み始める。
逆にゴールがなければ、どれほど優れた説明も霧の中の道案内になってしまいます。
教えることは、相手の人生の一部に関わることでもある。
だからこそ、最初の設計を丁寧に行うことが、長い目で見たときに大きな差を生むのです。
うまく教えることよりも、相手がうまく学べる環境を整えること。
この順番を間違えないことが、教える側に立つ人間にとっての第一歩だと私自身は思っています。
もしあなたの周りで「なかなか覚えてもらえない」と悩んでいる人がいたら、ぜひゴールの設定から見直してみてください。
きっと、何かが変わるはずです。
教えることの喜びは、相手の表情が変わる瞬間にあります。
その瞬間を一緒に増やしていきましょう。