プログラミングやIT技術を教える仕事をしていると、ふと気づくことがあります。
それは、受講者が最も成長するのは「自分が何を目指しているのか」をはっきり理解した瞬間だということです。
逆に言えば、目標が曖昧なままだと、どれだけ優れた講義内容を用意しても、学びの効果は半減してしまうんですよね。
講師として多くの企業研修や講義を担当してきた中で、私はこの「ゴール設定」の重要性を痛感してきました。
実は、かつてIT企業でエンジニアとして働いていた頃、私自身が明確な目標を見失ってしまい、挫折してうつ状態になった経験があるんです。
当時は毎日コードを書いていましたが、「自分は何のためにこれをやっているんだろう」という疑問が常につきまとっていました。
技術を磨くことだけに集中していて、その先にある本当のゴールが見えていなかったんですね。
そんな暗いトンネルを抜け出せたのは、IT企業の研修講師という天職に出会ったからでした。
受講者と向き合う中で、
「この人にどんなスキルを身につけてもらいたいのか」
「どんな未来を描いてもらいたいのか」
を真剣に考えるようになりました。
そうすると不思議なことに、自分自身の目標も明確になっていったんです。
教えるという行為は、実は自分自身を見つめ直す作業でもあるんだと、そのとき初めて理解しました。
では、なぜゴール設定がそれほどまでに大切なのでしょうか。
理由は明快です。
人間の脳は、目的地がはっきりしていると、そこへ向かうための最適なルートを自然と探し始めるようにできているからなんです。
たとえば、「プログラミングができるようになりたい」という漠然とした目標より、「3か月後に自社の在庫管理システムを自分で改修できるようになる」という具体的なゴールのほうが、はるかに学習効率が上がります。
受講者は何を学べばいいのかが明確になり、講師も教える内容を最適化できるわけです。
神奈川県相模原市で生まれ育った私は、地元の中小企業が抱える課題を間近で見てきました。
多くの企業が「IT化したいけど、何から始めればいいか分からない」と悩んでいます。
そんな企業の支援を始めたとき、まず最初に取り組んだのが、やはりゴール設定だったんですね。
経営者や従業員の方々と何度も対話を重ね、
「半年後、この会社はどんな状態になっていたいですか」
「どんな業務を効率化したいですか」
と問いかけました。
すると、最初は「とにかくデジタル化したい」と言っていた方々が、
「請求書作成の時間を半分にしたい」
「顧客データを一元管理して営業効率を上げたい」
といった具体的な目標を口にし始めたんです。
この変化は本当に大きかったですね。
ゴールが明確になった企業は、その後の学習スピードが段違いでした。
受講者たちは「自分たちの会社がよくなる」という実感を持ちながら学べるので、モチベーションも自然と高まります。
逆に、ゴール設定が曖昧なまま講義を進めた企業では、途中で「これって本当に必要なの?」という疑問が出てきて、学習が停滞してしまうケースもありました。
この経験から、私は講義の最初の段階でゴール設定にたっぷり時間をかけるようになったんです。
ゴール設定のポイントは、具体性と現実性のバランスだと考えています。
あまりにも壮大すぎる目標だと、受講者は「自分には無理だ」と感じて諦めてしまいます。
かといって、簡単すぎる目標では成長の実感が得られません。
ちょうどいいのは、「少し背伸びすれば届く」くらいの高さなんですよね。
たとえば、プログラミング初心者に対して「3か月で複雑なWebアプリケーションを開発する」というのは現実的ではありませんが、「簡単な在庫管理ツールを作れるようになる」なら十分達成可能です。
実際の講義では、ゴール設定のためのヒアリングに1時間から2時間ほどかけることもあります。
「今、どんな業務に困っていますか」
「理想の働き方はどんなものですか」
「5年後、どんな会社になっていたいですか」
といった質問を投げかけながら、受講者自身に考えてもらうんです。
すると、彼ら自身が気づいていなかった本当のニーズが浮かび上がってくることがよくあります。
これこそが、効果的な学びのスタート地点なんですね。
私が合同会社フェデュケーションを起業したのも、このゴール設定を軸にした教育を広めたいという思いがあったからです。
IT技術の楽しさを多くの人に知ってもらうためには、まず「あなたは何を実現したいのか」を明確にする必要があります。
技術はあくまで手段であって、目的ではありません。
受講者一人ひとりが自分のゴールを持ち、そこへ向かって学んでいけるような環境を作りたいと、いつも考えています。
Gallup認定ストレングスコーチとしての活動も、この考え方と深く結びついています。
人はそれぞれ異なる強みを持っていて、その強みを活かせる目標を設定することで、驚くほどのパフォーマンスを発揮できるんです。
プログラミング講師としても、コーチングの視点を取り入れながら、受講者が自分の強みを理解し、それを活かせるゴールを一緒に描いていくことを大切にしています。
ある企業での出来事が印象に残っています。
50代の経理担当の方が、最初は「私にはITなんて無理です」とおっしゃっていました。
しかし、じっくり話を聞いてみると、毎月の請求書作成に膨大な時間がかかっていることが分かったんです。
そこで、「3か月後に、Excelのマクロを使って請求書作成時間を3分の1にする」という具体的なゴールを設定しました。
するとその方は、自分の仕事が楽になるという明確なイメージを持てたことで、積極的に学び始めたんですね。
結果として、目標を2週間前倒しで達成され、今では他の業務効率化にも取り組んでいらっしゃいます。
このように、ゴール設定は受講者のモチベーションを引き出す強力なツールでもあります。
人は「自分ごと」として捉えられたとき、最も力を発揮します。
教える側がどれだけ熱心でも、受講者にとって「他人ごと」のままでは、学びは定着しません。
だからこそ、講義の最初に時間をかけてでも、受講者自身のゴールを明確にすることが重要なんです。
相模原市という地元で活動していると、地域の中小企業が本当に多様な課題を抱えていることが見えてきます。
製造業、小売業、サービス業、それぞれに固有の悩みがあります。
けれども、どの業種にも共通しているのは、「何を目指すべきか分からない」という迷いです。
この迷いを解消するお手伝いをするのが、私たち講師の役割だと思っています。
ゴールが明確になると、学習の道筋も自然と見えてきます。
受講者は「今日学んだこれは、自分の目標達成にどう役立つのか」を理解しながら進めるので、知識の定着率も格段に上がります。
単に技術を教えるだけでなく、その技術がどう役立つのかを常に意識してもらうことで、実務に活かせる本物のスキルが身につくわけです。
教えるという仕事を通じて、私自身も日々成長しています。
受講者と一緒にゴールを考え、そこへ向かって伴走する中で、新たな発見があります。
時には予想外の質問を受けて、自分の知識を深掘りすることもあります。
こうした経験すべてが、講師としての力になっていくんですね。
いつでも笑顔を忘れずに、受講者と共に学び続ける姿勢を大切にしています。
結局のところ、教えるということは、相手の可能性を信じて、その可能性が最大限に開花する道筋を一緒に描くことなんだと思います。
そのスタート地点が、まさにゴール設定なんです。
目標が明確であればあるほど、受講者は自信を持って前に進めます。
迷ったり立ち止まったりしたときも、「自分はここを目指しているんだ」という確信があれば、また歩き出せるんですよね。
IT技術を教える立場として、私が最も嬉しいのは、受講者が「できた!」と笑顔になる瞬間です。
その笑顔の裏には、必ず明確なゴールがあります。
小さな成功体験を積み重ねながら、最終的な目標へと近づいていく過程を見守ることが、講師としての何よりの喜びです。
これからも、一人でも多くの方が仕事を楽しめるように、そして人生が豊かになるように、ゴール設定を大切にした教育を続けていきたいと考えています。