学んだことを話すだけで知識が身につく話を聞いて、私は自分の講師経験を振り返らずにはいられませんでした。
多くの受講者から「習ったことを覚えられない」という相談を受ける中で、ある発見があったからです。
それは、最も知識が定着している受講者は、講義後に同僚や家族に内容を話している人たちだったということでした。
彼らは特別な勉強法を実践していたわけではありません。
ただ単純に、学んだことを誰かに話していただけだったのです。
実際に、プログラミングの基礎概念である変数の仕組みを説明した講義の翌週、ある受講者がこんなことを話してくれました。
「家に帰ってから息子に今日習ったことを説明してみたんです。最初は上手く話せなかったのですが、何度も説明しているうちに自分でも理解が深まっていくのを感じました」
というものでした。
この体験談を聞いたとき、私は改めてアウトプットの力を実感したのです。
なぜなら、その受講者は次の講義で変数を使った課題を他の人よりもスムーズに解決していたからです。
知識を他人に伝えようとする行為そのものが、理解を深める最高の学習法になっていたのでしょう。
しかし、多くの人はアウトプットと聞くと身構えてしまいます。
「難しい文章を書かなければならない」
「専門的な内容を完璧に説明しなければならない」
と考えがちです。
とはいえ、本当に効果的なアウトプットはもっとシンプルなものなのです。
私自身も講師になりたての頃は、この誤解に陥っていました。
受講者に対して「復習として技術ブログを書いてください」と課題を出していたのです。
ところが、多くの人がこの課題に取り組むことができませんでした。
理由を聞くと
「何を書けばいいかわからない」
「間違ったことを書いてしまいそうで怖い」
という声ばかりでした。
その失敗から学んだ私は方法を変えました。
「今日学んだことを誰かに3分間話してみてください」
という課題に変更したのです。
すると、受講者の反応は劇的に変わりました。
「友達と食事をしながら話した」
「電車で隣に座った同僚に説明した」
「家族の前で得意げに話した」
など、様々な体験談が聞けるようになったのです。
この変化を目の当たりにして、私はアウトプットの本質を理解しました。
大切なのは完璧さではなく、学んだ内容を自分の言葉で表現することだったのです。
相手に伝わるように話そうとする過程で、自然と知識が整理され、記憶に定着していくのでしょう。
さらに興味深いことに、話し相手が専門知識を持っていない場合ほど、説明する側の理解が深まるという現象も見つけました。
なぜなら、専門用語を使わずに説明しなければならないため、より本質的な理解が求められるからです。
例えば、データベースの概念を小学生に説明しようとすると「情報を整理して保管する大きな箱のようなもの」といった比喩を使う必要があります。
この比喩を考える過程で、データベースの根本的な役割について深く考えることになるのです。
実際に、この方法で説明を練習した受講者は、技術面接でも堂々と答えられるようになっていました。
それでも「話す相手がいない」という悩みを持つ人もいるでしょう。
そんな方には、一人でも実践できる方法をお伝えしています。
鏡の前で自分に向かって説明する方法です。
最初は恥ずかしく感じるかもしれませんが、効果は確実にあります。
私も新しい技術を学ぶ際は、必ずこの方法を使っています。
先月、機械学習の新しいアルゴリズムを勉強したときも、鏡の前で「今日学んだアルゴリズムはこういう仕組みで動いているんだ」と説明してみました。
すると、理解が曖昧だった部分が明確になり、翌日の講義でより具体的な例を使って説明できるようになったのです。
また、スマートフォンの録音機能を使って自分の説明を録音し、後で聞き返すという方法も効果的です。
客観的に自分の説明を聞くことで、理解不足の部分や説明が不十分な箇所を発見できます。
ある受講者は
「録音した自分の説明を聞いて、思っていたより理解できていないことに気づいた」
と話していました。
このようなアウトプット経験を積み重ねると、学習に対する姿勢も変わってきます。
新しいことを学ぶとき
「これを誰かに説明するとしたら、どう話そう」
と考える習慣がつくからです。
この思考パターンができると、学習効率は格段に向上します。
さらに、話すことによるアウトプットには即座にフィードバックを得られるという利点もあります。
相手の表情や反応を見ながら説明することで、理解してもらえているかどうかがすぐにわかるのです。
理解してもらえていない場合は、別の表現で説明し直すことで、自分の理解もより深まっていきます。
私の講義では、受講者同士でペアを組んで互いに学んだ内容を説明し合う時間を設けています。
この時間は毎回大変盛り上がります。
説明する側は知識の整理ができ、聞く側は別の視点からの理解を得られるからです。
一石二鳥の学習効果が生まれているのを感じます。
実のところ、この方法を取り入れてから受講者の理解度テストの平均点が20パーセント向上しました。
数字で見ても、話すことによるアウトプットの効果は明らかです。
それでも最初は半信半疑だった受講者も、実際に体験すると
「こんなに簡単で効果的な方法があったなんて」
と驚かれることが多いのです。
ふと思い返すと、私たちは子供の頃から自然にこの方法を使っていました。
学校で習ったことを友達に話したり、家族に自慢げに披露したりしていたのではないでしょうか。
あの時の純粋な気持ちで、学んだことを誰かと共有する喜びを思い出してみてください。
しかしながら、大人になるにつれて私たちは「完璧でなければ話してはいけない」という思い込みを持つようになります。
この思い込みが、せっかくの学習機会を奪ってしまっているのです。
間違いを恐れず、素直に自分の理解を表現することこそが成長への近道なのです。
先日も、ある受講者が
「プログラミングの概念を母親に説明したら、思わぬ質問をされて答えに詰まってしまった。でもその質問のおかげで、自分の理解不足に気づけました」
と報告してくれました。
これこそが、話すことによるアウトプットの真の価値だと思います。
あなたも最近何かを学んだ経験はありませんか。
その内容を誰かに話してみることから始めてみてください。
相手は家族でも友人でも、場合によっては一人で鏡に向かって話すだけでも構いません。
大切なのは学んだ内容を声に出して表現することです。
話しているうちに
「あれ、この部分はよく理解できていないな」
と気づく瞬間があるでしょう。
その気づきこそが、さらなる学習への第一歩となるのです。
完璧を目指さず、まずは思ったことを素直に表現してみる勇気を持ってください。
知識の定着を図るアウトプットは、決して難しく考える必要がありません。
学んだことを誰かに話すという、日常的で自然な行為が最も効果的な学習法の一つなのです。
完璧を求めず、まずは気軽に話してみることから始めてみてください。
きっと、知識が自分のものになっていく実感を得られるはずです。